元々美容室を経営していたお袋は、高齢になり、そして体力的にも営業は難しいため、ここ10年くらいは店にも足を運ぶことがなくなっていた。
墓参りの後、お袋の口から、震災後も、自分の体調を慮って一度も店に行っていないという言葉を初めて聞いた。
いつも行く喫茶店や寺から歩いて数分。甥っ子と姪っ子を連れて、覗きに行ってきた。
長い間、人の出入りがなかったので、カビ臭さや床の腐食が認められた以外は至って健全だったが、一箇所、店舗の天井の一部が崩れていた。
状況をお袋に伝えると、もう、店を開けることはないだろうし、梁や筋交いなどはしっかりしているなら、今更修復する必要もない、そうお袋は言った。